SCOTT ADDICT SL 神々の住まう頂きに至るために3

旧約聖書、後にイスラエル民族の
祖となる、ヤコブは腰の筋を痛めて
いた。

兄エサウが受け継ぐはずの長子権を
知恵を使って持って彼が継承してしまう。

その事に怒りを覚えたエサウから身を
遠ざけるために、叔父ラバンの元に
身を寄せるようになるのだが。

その道程のある一夜、ある存在と格闘
することになる。この存在は神の御使
でもある、とも言われている。

御使いは劣勢にたたされて、ヤコブの
「もものつがい」を打つ。そしてヤコブは
弱くなってしまう。

このエピソードの解釈は他に譲るとして
なぜ急にこんな話を持ち出したのか。

どうやらこの数日ADDICTSLに乗り込み、いくつかの峠を越えてくる中、腿の筋を少しいためてしまったようなのだ。

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フレームセット重量アンダー1000g
スラムレッドとレイノルズのカーボン
ホイールで組み付けた僕のADDICT
はペダル込み5.5kgをマークした。

もう少しやれば4kg台も夢じゃない
のだけれど、この辺から人のままでは
超えられない一線が顔を見せ始める

この先はわずか数十グラム、
下手したら数グラムを削るために万
単位の金額がかかる事もざらである。

お金がかかるだけならまだしも、軽くする
事で剛性、耐久性を犠牲にしなければ
ならないケースまで出てくるのだ。

およそ知覚できないような僅かな減量の
為に、性能と預金残高、そして家族の
信用を天秤にかけるのだとしたら。

幸いにもその一線を越えてしまわない
位の理性は僕にもまだ残っている。

とにかく、これだけ軽い車体だ。
登りでは厳然たるアドバンテージを
与えてくれる。しかし。僕は腰を痛めて
しまったのだ。

もっと車重の重い、LOOKなんかは
上り坂の最中でも常に下支えしてくれ
ているような感覚がある。

人間が傲慢にならないぎりぎりの加減
で、人知れずライダーの背中を押して
くれているような。
そしてそれは他のバイクに乗り換えて
みて初めて分かるような物だったりする

じゃあこのADDICTはどうなのか。
はじけるような軽快な登坂力。
羽のように軽やかな挙動。
シルキーな走行感と、巡航性。
そして驚く程に下りがいい。

この全ての要素が高次元でブレンド
されている。数日間乗り込んで
みた限りでは、文句のつけ様がない。

そして、雄弁にこう語りかけてくるのだ。

「天空の神々に挑む武器はすべて与え
た。もうこれ以上出すものはないから、
後はお前が何とかしろ。」

完璧な性能を持って、ある意味ライダー
を突き放しにかかってくる様な気がする。

さらに言うなら、僕のエンジンの性能では
到底天空の門扉に楔を打ち込むには至ら
ないことが見透かされているようで、

なにか悔しく、ついついオーバーペースに
なってしまった。結果。腰を痛めてしまった

これは完全に僕の鍛錬不足であり
身からでた錆び。ADDICTには一遍の
非もない。まあ一晩も寝れば治る
だろうけれど。

神聖さをもって生者を拒む急峻を
火急速やかに陥落させるために
極限まで装備を削る命しらずの登山家
のように、ADDICTも極限なのだ。

だから、どこか偏屈で、気高い。

VOL4へ続く

SCOTT ADDICT SL 神々の住まう頂に至るために 2

息を荒げながら骨を、筋をきしませ
ペダルを押し下げ、高度を上げていく

むき出しのカーボン地を、最低限の
つや消し仕上げにした表皮を指でなぞる

薄く張り詰めたカーボンの下にある、
しなやかな黒豹の筋に触れたような
錯覚にぞくりとする。

wpid-wp-1444797373544.jpeg

ADDICT SLに跨り、山の道の深い
森の奥を一人、重力に逆らいながら
進む時、喚起されるイメージがある。

様々なイメージの変遷の果てに
いつも最後に思い浮かぶのは、
雪原の中を一歩一歩
踏みしめ、天空へと続く頂に挑む
登山家の姿なのだ。

そこでは何故か、彼は一台の黒い
ロードバイクに跨っている。

現実では到底、
あり得ない光景なのだけれど。

SCOTT ADDICT SL
ロードレースで並み居るライバル
達を登坂で軽やかに置き去りに
するよりも、

孤独の中で一踏み一踏み、
自分に向き合いながら限界に
挑戦していく。

そんなストイシズムが最近の
モデルにしては細く、凛とした
肢体に漲っている。

フレーム重量 720g
フォーク重量 270g

XSサイズのフレームの実測は
大体こんな物。
昔よくあった、フレーム単体重量
何何g、とか塗装前重量をカタログに
記載して、お茶を濁すやりかたでは
なく、ガチでフレームセット重量
1000g未満の物をスコットは仕上
げてきた。

ヘッドセットに小物、BBを組み付けて
も1100g半ば位だったような気が
する。

ロードバイクの世界において、軽さは
正義、とみなされることがよくある。

だけれどこの重量を目の当たりにし、
手にその羽のような重さを実感して
みると、果たしてここまで軽くする
必要があるのか?と小首を傾げたく
もなってくる。

フレーム重量アンダー700g、と華々
しい歌い文句で世に送り出された
キャノンディール、super sixEVOは
なんだかんだ言いながら、実測数値
になるとフレームセット一式1200g台
半ば位の重量があったような記憶が
ある。

勿論、当時の中では破格の超軽量
っぷりだったし、その性能からも、
ロード業界に革命をもたらしたモデル
だった。

このモデルのすごい所は、軽さとひき
変えに何かを犠牲にしなかった所にあ
って、無茶な設計でマーケティング力
を強化したような浅薄な物ではなかったこと。

余分な樹脂や、性能に影響しない部分の
繊維を企業努力によって徹底的に排除し
て、フレームの完成度を突き詰めていったら
、結果的に軽くなってしまった。

そんなフレームなんじゃないかなと
思っている。とても真面目に作られた
フレームなのだ。勿論僕の空想の域を
出ない考えなのだけれど。

それを踏まえた上で問う。
リファインしたADDICT SLは何の
ために、どうやってここまでの軽さに
いたったのか?

VOL3へ続く

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SCOOT ADDICT SL  神々の住まう頂に至るために 1

SnapCrab_NoName_2015-10-14_13-42-24_No-00

基本的には暇さえあれば本を読む。

昔は推理、サスペンス物をよく読ん
いたけれど、徐々に多岐の分野に
手を出すようになって、最近は政治
経済、ノンフィクションにも手を出す
様になってきた。

そんな中で最近、山岳小説にちょっ
と興味を持ち始めるようになってきた

僕は山登りはやらない人間なので、
そういう類の本を読んで、人の世の
喧騒から遠く離れた山奥で自分の
本質と向かい合ってみたい、とか
そういった衝動は別に感じない。

でも、大概の偏屈な主人公達が、
呼吸するのも命がけの極限状況の
中で展開するドラマやら

かたや濃密なドラマが展開していた
としても、それら全てをあざ笑うよう
に簡単に吹き飛ばす自然の無情さ、
と人の営みをはるかに超えた超常性

永遠に続くかと思われる風雪の中、
生のしがらみの全てを切り離して
むき出しの魂になった人物達が
最後にたどり着く天界の描写。

地上と、神の世界の境目。
生と死が共存する世界。

そこに矮小な人間が踏み込む
カタルシス。

そして下山で現れるどんでん返し
やら悲喜劇諸々。

まだ数はそこまで読んではいない
のだけれど、かなり心を掴まれる物
がある。

そんな中、ちょっと気になるシーンが
必ず登場するのだ。

吹雪の中、身動き取れなくなってただ
ひたすらにカロリーと水分を摂取する
シーン

ではなく、

世界の最高峰には酸素濃度が薄す
ぎてそこに存在するだけで命が削ら
れていく領域がある。

標高7000mを超える高所。

通称デスゾーンと呼ばれている。

そこは生者の存在を許さない向こう側
の世界。神々の住まう場所。

そんな場所を個人の力だけで登りつ
めようとする人種がいる。

生身で神に挑むために彼らはどうする
のか。

極限まで身を軽くする。
死神の鎌が首筋に冷たく這っているような
場所で、命をつなぐのは装備や食料。

山頂をアタックするのに必要最低限な
分の食料、燃料、装備だけをのこして
出来る限り身に負う荷物を減らしていく。

それこそ、食料の包装紙一つ、ベルトの
ストラップの金属部一つ。変質的なまで
の細かさで数グラムを削っていく。

この重荷を削っていくシーンを見るとき、
ヒルクライムのためのロードバイクを
組むために数グラムを削る作業を繰り
返すシーンを思い浮かべてしまう。

今回扱う、SCOTT ADDICT SLで
峠にいるとき、何故か心の中では
雪原に埋もれながら必死に自転車を
こいでる絵が浮かんでしまうのだ。

山を、坂を登る行為。
身を軽くする行為。

キャノンディールのEVOが開けた
軽量化新時代の扉。

かつて軽量バイクのベンチマーク
だった車名がリファインされた。

ADDICTの再登場は軽量戦争の
真打としてマニアの関心を引く。

ただ軽く、硬いだけのバイクでは誰も
納得しなくなってしまった世情の中、
SCOOTはADDICTにどんな魂を
込めてきたのだろう

VOL2に続く

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