※再掲載 僕はorcaに恋している 4 初めての栄光と盗難

人間とは実に不平等なものだと思う。

ことさら、スポーツの部分においてそれを強く感じてしまうのは
僕自身が人並み以下の運動神経しか持ち得ないからだろう。

高校程度のスポーツでは、常にヒーローは決まっていて、努力しようが


持って生まれた運動神経の差を埋めることはできない

球技大会の主役はいつも決まっているのだ。

運動に関してはそんなあきらめを持ってしまっていた。

何も知らずに買ってしまったルック車だけれど、同時は相当舞い上がっていた。
そして思った。

「自転車を前にしては人間生来の運動神経はおよそ平等に扱われる」

およそ100年以上、その物理学的運動原理はかわっていない。
地上でもっとも効率のいいとされる、完成された乗り物。

数学的美しさを持つ、すなわち神様の真理を内包する乗り物の前には
人間個人の差異など、微々たるものなのかもしれない。

そんなことを運動嫌いの僕を虜にした自転車に触れるときに感じてしまう。

ルック車を買ってからひと月ほどして、
当時よく顔を出していたインカレ系のサークルで、
自転車で東京から小田原まで遊びに行こうという企画が持ち上がる。

当時はまだ、スポーツバイクブームの萌芽が感じられる程度の時代だったので
14800円のルック車だとしても、みんなの関心を引くことができた。

大多数の参加者はママチャリだったのだ。

そして、旅の終着、宿舎は山の中にありそこで人生において初めて
スポーツでの賞賛を浴びる事になる。

箱根の山はそれなりに急峻で普段運動自慢の奴らが駆るママチャリが
悲鳴をあげて脱落していく中、

僕とその相棒のルック車だけが最後まで山を駆け登ることができた。

いくらルック車だといえども、ママチャリとの間には歴然たる性能の差が
あるのだ。ザクと、連邦の白いやつ並に。

特に順位など設けられていたわけじゃない。
目に見える形の賞賛ではなかったが
ただ一人、坂を登り切ることができたその時の達成感と感動たるや、言葉に尽くせぬ
ものだった。

僕は僕の心の中ではマイヨ・グランペールを着たのであり、野々村輝だったのだ。

自転車って素晴らしい。その時、心からそう思った。

そうして旅が終わり、東京に戻り数日後。そのルック車はいとも簡単に盗難に
あってしまう。

賞賛のわすか数刻後、膝から崩れ落ちるほどの衝撃を受けた。

価格はそれなりだったとしても、僕を人生初めての栄光に導いてくれた相棒が、

その価値をしらない無慈悲な輩に残酷にも連れ去られてしまったのだ。

スポーツバイクと盗難は切っても切れない運命にあることをまだ知らない27歳の
初夏の出来事だった。


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僕はorcaに恋してる 7 罪は罪で帳尻を合わせてくる世界だ。※再掲載内容若干変わっています。

2008年の冬を越す前に僕はかなりショッキングな事件に遭遇する。

簡単に言ってしまうとそれまで6年間ほど続けていたバイトが
あるトラブルに巻き込まれてクビになってしまうのだ。

精神的にも経済的にもかなり追い詰められることになってしまったが、
この事件が元で結果的にある大きな哲学を持つようになる。

善には善で、悪には悪で

それぞれが行ったとおりにその因果の報いを受ける世界なんだということ

目には見えなくても神は全てをご覧になっている。
そしてその行いの責任と帳尻はすべて採算が合うようになっているのだ

目先の小さな欲に溺れてつまらない罪を重ねてしまう。
その報いは必ずその本人に帰ってくる。

できる限り人には善を持って、真実を持って

そして人を信じ、仮にその結果が自分にとって一時の不利益をもたらすとしても

それが神の目にかなう行為ならばその帳尻はむしろ自分にとってより大きなものとなって帰ってくる。

キリストが人類の罪を十字架として背負い、救いの道を開いたような

大仰な話ではないけれど、

近しい人間の痛みを、罪を背負ってあげるならそれは自分にとって
有益となって帰ってくる。

数年して僕はorcaを手に入れるようになる。

それどころかもっとたくさんの
憧れたロードバイク達に囲まれて暮らしている。それも、行った通りになんだろう。

そういうことを分からずにケチでせこい人生を生きていたなら、きっと僕の
人生は詰んでしまっていたはずだ。

しかし、当時の僕はそんなことはわからず生活は厳しく、冬は迫ってくる。

それまでは自由気ままに思えていたフリーター暮らしが
途端に惨めなものに感じられた。

それでも家に帰ると、件のカーボンロードが僕を迎えてくれるのが
せめてもの慰めだった。

そしてorcaへの思いは一層募っていく。

さて、一体どうしたものか・・・・

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西武新宿理容戦線異常なし

季節は春だというのに今日は寒い日だ。

これが花冷えというやつだろうか

しかしおかげで着慣れたジャケットで外出することができる。今日はついている。

擦り切れたジャケットの襟を合わせながら、肌になじんだその感覚が高揚した心を
落ち着かせてくれる。

やはり、戦場には一番手に馴染んだものを、というわけか・・・・

灰色い雑踏の中を歩いていくと前の方から見慣れた顔が近づいてきた

「よう○○、どこ行くんだ?ってお前まだそのジャケット来てるのかよ、
物持ちいいなあ」

俺「ああ、ちょっと野暮用でな」

これは良くない

せっかく適度に張り詰めた精神が日常の感覚の中で弛緩していくのが分かる。
ここは早めに切り上げなければ
俺「すまん、ちょっと急ぐんだ。・・なあ、もし俺から2日間連絡がなかったら
・・・・いや、何でもない。達者でな」

そい言うと、まだなにか物言いたげな友人を残して足早に目的に向かっていく。

日常は感覚を鈍らせる。今は馴れ合いは必要ない。必要なのは鉄のような
冷たく確固たる精神だけだ。

そして数分後、俺は例の場所の扉の前に立つ。
その建物の異様だけでも、既に俺の背中と脇は嫌な汗でべっとりとなってくる。
この感じだけは毎回馴染むことができない。

苦笑いを浮かべると、俺は萎縮する体を精神の力で押し切って、力強くドアを開ける。

「いらっしゃいませ~☆彡」

天使のような、しかし心の中では何を思っているのかとんとわからない機械のような笑顔が俺に注がれる。

スペースの奥に目をやるならそこには耳障りの悪い音楽と、オシャンティな連中が
牙をといでいる。そう、ここは美容室。


完全なアウェイだ。

急にアニメソングが
聴きたくなってきた

「15;30に予約した○○だけど」

動揺を隠しながら答える。あくまでクールに。

「あ、カットとシャンプーですね、お待ちしておりました☆
こちらへご案内いたします♫」

手馴れている。はたして一体何人がこいつの餌食になってきたのだろう。
また、背中に冷たい汗が流れる。

彼女はあくまで柔らかな笑顔と穏やかな物腰だが、それがむしろ不気味だ。
つかみどろこの無い様な目線で、俺のつま先からてっぺんまでを値踏みしてくる。

普通の人間なら彼女の発するオーラに、一瞬で心をあずけてしまうだろう。
しかし、俺の百戦錬磨の眼力は彼女の腰の部分の膨らみを見逃さなかった。

あそこには奴らの武器、通称シザースがかくされいる。

「上着をお預かりしますねー☆」

ここで一瞬逡巡した。着慣れたジャケットをここで渡してしまっていいのだろうか?

しかし、今はまだ奴らのターンだ。ここはおとなしく従うことにしよう。

不安を悟らせないように努めて冷静にジャケットから袖を抜いていく。

ジャケットを手渡してから俺は大きな失態を犯したことに気がついた。
ポケットにスマホと鼻炎薬を入れたままだったのだ。

やれやれ・・・今日は厳しい戦いになりそうだ。
まさか完全なアウェイの中で徒手空拳で相手に挑まなければならないとは。

せめてネットで同士達と連絡が取れるならまだよかったのだが、これで俺は
孤立無援になってしまった。

・・・・続く。

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