続・レーザー脱毛の話

自分で言うのも何だが、童顔かつわりと女性的な顔立ちをしている僕にとって、髭の存在というは目の上のたんこぶ、不倶戴天の天敵。

世の中には様々な人種がいるが、髭が似合う人種とそうでない人種とでおおよそ大別できる。其のうち、僕は明らかに後者のほうだった。

 

いかに髭を生やさないか、口周りを青黒く染めることなく天寿を全うするか。それが僕やそのような人間にとっては至上の命題となりうるのだ。

そして髭について正確な情報を得ていなかった僕は髭にかみそりを当てる事をかたくなに拒み、一本一本毛抜きで抜き続けていた

それがどんなに肌に、そして毛穴に負担になるかなぞ想像することも出来なかったのだ。髭は抜くのが正義。剃刀を当てつづけ、口周りが、頬が、顎下が黒々と色づいている男性諸氏を見ては「この情弱め」と心の中で毒づいていた。

そんな自己処理の日々が10年も続いてしまい、遂には僕の毛穴は取り返しのつかない段階にまで行ってしまうことになる。

度重なる刺激に肥大してしまった毛穴は小さい黒子のようになり、それが口の周りに点在する。そして皮膚の下で伸びかけの毛が渦を巻き始めるのだ。

埋没毛。髭を畏れる人間にとって最悪の事態が生じてしまう。

皮膚の下でオウムガイのような螺旋を描くそれが口の周りに点在する。

オウムガイの描く螺旋の奇跡は常に1:1.618の黄金比率であり、其の螺旋には生命の神秘、神の万物創生の秘蹟、万物に流れる進化のエネルギーが内包されているという(夢枕獏風)

しかし僕の毛穴の中にうごめくそれは美しい黄金の回転ではなく、比率の崩れた醜い螺旋であった。

カンブリア期の原始的な海の中ではさまざまな螺旋を持った生物が生まれては淘汰されていった。

其の中で結局生き残ったのが完全なる螺旋を持ったオウムガイだけであったように、このままでは僕も太古に実験的に産み出され淘汰されていった様々な螺旋の生物と同じ運命をたどってしまうのだろうか。(夢枕獏風)

アイアンスケールフリッとの様に、生物でありながら鉄の外殻を持ったいびつな生命体。僕の毛穴も間違った螺旋に導かれて有機生命体の枠を超えてしまうのではないか。

鏡を見るたびにその様な考えが浮かび、暗澹たる気持ちになる。

そんなネガティブなプレッシャーが遂に僕に医療脱毛という高いハードルを越えさせるようになる。

当時はまだレーザー脱毛というのは男性脱毛業界では一般的ではなく、永久脱毛といえば針脱毛がメインだった。

毛穴に電極の付いた針を差込み、毛根の核たる部分を熱処理により破壊、毛穴の生命活動の核たる部分を根絶させる、という直接的、暴力的な施術方法。

しかしこの施術にはそれなりのリスクが伴ってしまうのだ。

まずは痛み。針を差し込むのだから当然、痛みが伴う。更に熱をもって毛根を焼ききるわけだからこれが痛くないわけが無い。

あまりの痛みに途中で脱毛を断念してしまう人も出てくるらしい。

しかも痛みを我慢しても、施術者の技量が未熟である場合、正確に毛根の根。根毛とでも言えばいいのかを破壊できない可能性もある。

この場合、ただ痛いだけでありなんの効果も及ぼさないのだ。

更に料金も一本あたり数百円という物だった。自分の毛穴の総数を把握しているわけではなかったが、概算するに天文学的な数字が算出されることは想像に難くない。

そう考えると、針処置による永久脱毛というのは、あまりお勧めできません。

そう意を決してカウンセリングに行って見た某有名メンズエステの施術者は話していた。(2004年頃の話であって、現在の針脱毛技術はまた違った進歩を見せていると思う)

一縷の望みをかけて足を向けたサロンは、僕の希望足り得なかった。そして再び絶望的な事故処理の戦いの日々が今しばらく続くのだ。

レーザー脱毛の存在を知らなかった冬の話である。

続く

 

 

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