雑談 回っているのは寿司なのか時代なのか、それとも僕なのか

暖簾をくぐる。座席に通される。大型の系列店じゃなければ大抵の店はカウンター席しかない。荷物を廊下側、待合席に置かせてくれる店は大概いい店だ。

おもむろに椅子に腰を降ろし、少し左右に揺すって見る。椅子のベアリングが滑らかに回転するのも大概良い店の証拠である。そうしてお絞りで手をぬぐい、湯のみに粉末のお茶を注ぐ。

レーンの中で華麗なステップを踏みながら次々と注文をこなしていく職人の所作は、一流の舞踏家か、もしくは筋力に頼るのではなく身体構造を理解し、効率よく業を繰り出していく練達した格闘家を思わせる。

そんな職人の小気味良い動きを視界の隅にとどめながら、向かいの壁にある今日のお勧めを一瞥し、作戦を練っていく。それが回転寿司における一般的なルーティン。イ○ローだってやっている。

セオリー通りなら白身から攻め、イカ、赤味、光物と流れていくの所。がここは回転寿司。いきなりサラダ軍艦等邪道と呼ばれるネタを呼び水に、ウナギ、ハマチ、ビントロ等回転寿司ならではの安価で味の濃い品でジャンク本能を刺激するのもいい。

その後はから揚げ軍艦、ジャンボイカ天握り、ハマグリラーメン等寿司魔界の侵攻が始まる。外道喰い上等。天上天下唯我独尊。

そうやって朝から組み立てた寿司の流れを、現地のネタの様子に微調整を加えながら限られた皿数で、いかに満足感を得られるか。そこに各スシマイスター達の個性がにじみ出る。

そんな流れを断ち切るかのように、唐突に職人が握りたてのうまそうなネタをレーンに流してくる時は、後半戦に向けて組み立てた流れの全てが瓦解して目の前の寿司に本能のままに手が伸びてしまう日もある。

手が、意識の力では止められない。死神と呼ばれたトーマス・ハーンズの左手から繰り出されるフリッカージャブを髣髴させる起動を左手が描く。スナップの効いた手首が寿司をレーンから奪い去っていく。

咀嚼し、飲み込む音、お茶をすする音、手首が空を切る音。空間を支配するのはそれらの音だけ。ごくたまに、ししおどしの乾いた響きが店内に清涼感を添えてくれる。

それが二三皿続く時には回っているのは寿司なのに、まるで此方が寿司に回されているような感覚に陥る時がある。何一つ自分の思惑とおりに事が進まない筈なのに心は躍る。これぞ回転寿司の醍醐味。

 

・・・なんて話を後輩達に語ると、皆訳がわからんと言った顔でこちらを見返してくる。

「回転寿司で組み立てなんて考えてるんですか?どんだけ意識高いんすか」

そういうと彼らはおもむろにタッチパネルに手を伸ばし、無造作に寿司を選んでいく。彼らが選ぶのは大抵「サーモン」「海老アボガド」・・・

なん・・・・だと・・・・

お前らの血は何色だ。季節感も風情も何もない注文に血が沸き立つ。思わず席を立ち、彼らの上流の席を一人確保して彼らの注文した「サーモン」「焼きサーモン」「海老アボガド」を片っ端から横取りしたくなる。

そうして僕が注文しておいたサラダ軍艦や、絶妙に解凍されたビントロを彼らに向けて発射したくなる。そうして最後に「喰い改めよ」と書いた立て札をレーンに流すのだ。

勿論モラルに反する為にそんなことはできない。けれど頭の中でそんな光景を思い、一人溜飲を下げてその場は耐え忍ばなければならない。近年の日本はいったいどうなっているのだ。

ちなみにそんな輩は大抵タッチパネルのない店では怖気づいて職人さんに直接注文することが出来ず、ただもじもじと席上でお茶をすすりガリをかじるばかりだったりするのだ。

そんな彼らが果たして将来、また自らの意思で回転寿司の暖簾を潜るようになるだろうか。海老アボガドよ、お前は自ら将来的な自分の市場を狭めている事を知っているのか?知っていてやっているならお前はとんでもないキチン質(甲殻類の殻に含まれる成分)野郎だということだ。

 

つづく・・・・

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